古市貴之の当たり前になった特別な日 べるぜ 2023年09月30日 pixiv公開日 2021年11月11日 古市くん誕生日話 目が覚めて身体を起こすと視界にプレゼントの山。山。山。足元を埋めつくし、ベッドから溢れて床も埋めそうな勢いの、正体不明の物品たち。「……なんじゃこら」眠い目を擦りながら古市は首をかしげる。寝起きは頭が働かない。いくら巷で知将と呼ばれていようと、こればかりは仕方がないだろう。と、そこでドアをノックする音に気が付いた。この部屋をノックしてから入るような人物はあまりいない。大抵は嵐のような音を立てて開かれている。それでも、返事をする前に開かれるのは共通事項ではあるのだが。「おはよう。……ってなにこれキモッ! なにこの山」開口一番。遠慮の無い声に苦笑する。伸びたピンクの髪をゆるく纏めたラミアの視線もプレゼントの山に釘付けだった。大人びてきたとはいっても、こういうところは変化がなくて微笑ましさすら感じる。恐らく自分も当事者でなければ真っ先にツッコミを入れていただろうが。まあそこはそれ、と考えつつ、古市は頭を掻いた。「おはよ。オレにもなにがなんだか」「おおかた柱師団のやつらだろうけど、あいつら加減ってものを知らないのかしら。まあとりあえずハイ、これ」呆れた顔をしたラミアが、小さな紙袋を手渡してくれる。かわいらしいラッピングは彼女自身によるものだろう。また腕を上げたなぁと感嘆しつつ、古市はようやく日付を思い出した。「……あ、オレ誕生日か」「そーよ、今年も美味しく作ってやったんだから感謝しなさい! ……おめでとう」「ありがとな、ラミア」いつからだったか毎年作ってくれるようになったお菓子は年々クォリティーを上げ、今ではそこらのパティシエでは太刀打ちできないほどになってきている。勿論、それが自分だけのためではないとはいえ(彼女が作る菓子は大体ヒルダのお茶菓子になっているということを古市はよく知っていた)、毎年わざわざ事前に準備してまで作ってきてくれることは単純に嬉しく、くすぐったい。昔はもうちょっとつんけんしていたというのに、目線が近くなったからだろうか。もはや可愛い妹のように感じていた。そういえばほのかは元気だろうか、そろそろ一度実家に帰るのもいいかもしれない。「それで、今日の伝達事項だけど。今日は午前中は東部の視察だそうよ。午後は事務処理手伝ってほしいって。それから、アンタは今日朝食以降は夕食まで食堂出入り禁止」「……おー」咄嗟に、食堂を嬉々として飾り付ける柱師団の面々が思い浮かんだ。魔界屈指の戦闘力を誇る彼らだが、イベント事もよく好む。誕生日会など最たるもので、大規模なものから小規模なものまで、毎月、いや毎日のように行われていた。古市の予想はどうやら当たりのようで、ラミアがまたも呆れた表情でぼやく。「なんというか、サプライズしたいのかなんなのかよく分かんないわよね」「ほんとにな」「昼食は焔王……様、がテラスに来い! って。私も行くけど、一応それなりの格好して来なさい。張り切ってるみたいだから」「へーい」「早く支度して来なさいよ。それじゃ」「うん、ありがとな、ラミア」起き抜けに悪かったわね、と最後に付け足して、ラミアは静かに扉を閉めていった。さて、と古市はプレゼントを崩さないようにベッドを抜け出す。まずは身支度。それからプレゼントを一つひとつ紐解いていって、夕食にはきちんとお礼を言わなければならなかった。昼食の時間が延びなければいいけどな、と古市はひとりごちる。窓からはこの時期にしては珍しく晴れ間が覗いていた。 PR