ゆらり、ゆれる、水を見る。
コップに形作られた液体。変化する定型。しずくが喉を微かに濡らす。
小さな部屋。
扉を一枚挟んだ向こうは、もしかしたら誰かがいるかもしれない。その誰かが、今この部屋の光景を見たらどんな感想を抱くのかしら。驚き? それとも納得? 関心がない人もいるのでしょうね。私にはそれが一番だけれど、この部屋の持ち主は、ここにすっかりなじんでいるから、どうでしょう。
簡素な家具。ベッドに椅子、テーブル。いくつかの酒瓶。それからお菓子。
ここにいる期間に反して、持ち物は私よりも少ない。いつも忙しくしているから、増やす時間もないのでしょう。お酒やお菓子は、交流のある誰かたちのもの。
ベッドの上の、愛した人。
行儀悪くベッドから腕を伸ばして水を飲む。その姿すらどこまでも美しくて、恋しくなってしまう、ずるいひと。私を避けたがるくせに、部屋には招き入れる。私を愛さないくせに、側には置く。私に触れはしないのに、私が触れるのは許す人。
衣擦れと、呼吸の音以外は静かな部屋だった。
今は朝か夜かも分からない。分かるのは二人分の体温がベッドに染みついている、ということだけ。