好きなので!!!
あんまりこう、耐えきれなくなって欲しくないというかなんというか……長生きしてほしい……ので……。
という御託を並べられ差し出された聖杯に、頬がひきつるのを感じる。戦闘に出る度、毎度毎度前線に立ちたくない、と主張していた自分が滑稽ではないか、と文句を言いたいところだった。そんなオレの表情を見てか、同じくセイバーで、――いち早く聖杯を上限まで捧げられた竜殺し、が若干申し訳なさそうにこちらを見る。それならこのマスターを止めてくれ。そんな風に、半ばマスターとマシュの父親のような立ち位置になってしまっている、最古参に強く願うも。しかし結局のところ二人に甘いジークフリートは、前線に出る機会もままあるのだから、受け入れてはどうだろうか、とこちらを懐柔しにかかってきた。……まあ理屈は、わからんでもない。セイバークラスはそこそこ召喚に応じるこのカルデア、だが。依然として経験は浅く、戦力やマスター自身の能力もまだまだ発展途上。コストも低く、宝具が周回向きであるオレは重用される傾向にある。例え、目の前の竜殺しがこのカルデアで、敵全体を攻撃できる宝具を持っていたとしても。スキル向上にかける素材が十全につぎ込まれていたとしても。助っ人のキャスターアルトリアとの相性を考えると、今のところは相性不利でもない限り、オレが一番適任。ということになる。らしい。ふざけるな。陳宮とかいるだろ、という真っ当であるはずの意見は、でもまだ陳宮育成ちゃんと終わってないし、のマスターの一言で終わった。本当にふざけるな。セイバークラスに次いで雨後のタケノコのように続々やってくるキャスタークラスにも文句を言いたくなる。なまじ基礎能力が高いやつらが来るばかりに、陳宮だのなんだのの育成も遅れているのだ。指揮官は前線に出るべきじゃない。……今の指揮の全権はマスターにあるということは目をつぶるがいい。
そもそも、オレもレベル的には十分すぎるほど十分ではあるはずで、今このタイミングで聖杯の上限まで渡されるよりは他の奴らに育成コストを払った方がいいんじゃないか。この前来た芦屋とか。紫式部とか。モードレッドとか。それこそ陳宮を使えるレベルまで上げたっていいだろう。そもそも全体的なバランスを考えれば他のクラスの奴に聖杯をくれてやれよ。オレ以外にもパリスとか赤兎馬とか嬉しそうに使ってるだろうが。それを無視して最優先でオレに聖杯だと? こいつはこんなにバカだっただろうか。
深く溜息を吐けば、マスターが上目遣いにこちらを見る。ああくそ、そんな顔したって無駄だぞ! 無駄だからな!!! 絶対にいらんぞ!! マシュも頼もしそうな視線をこちらに送ってくるんじゃない!
「……まあ、なんだ、その。共に、頑張ろうかイアソン殿」
「その生暖かい目をやめろ、竜殺し……」